粗筋
日本で言えば110番―911のオペレーターの
ハル・ベリー演じるジョーダンさん。主任も認める手練れの彼女
今日も今日とてテキパキと仕事をこなし、いつもの酔っ払いからの電話を
軽くいなし、恋人の警官と休み時間にイチャイチャ…
だが、一本の通報が彼女の運命を狂わす。
「家に男が入ってきた！」
助けを求める女性の電話にジョーダンは冷静に対応する
だが、電波状況の悪さから、ジョーダンは切れた電話に思わず
リダイアルをしてしまう。
結果、その電話を聞きつけた犯人に女性は拉致され殺されてしまう…
半年後、教官として研修生を教えるジョーダン。
緊急通報司令室の中を案内し
一人の新人オペレーターの席の後ろで立ち止まる。
彼女のやり取りを元に、研修生を教えるジョーダン。
研修生はシンジオペレーターに質問する。
「何が一番辛いですか？」
「一番辛いのは…先が判らないことです。
私達は誰かを派遣するだけで
結果を知らない…」
そこに一本の通報。
動揺しはじめる新人オペレーター。
「い、今トランクの中にいるの！男にショッピングセンターで
拉致されて、トランクに押し込められてー…」
プリペイド携帯だからＧＰＳで位置が詳細に確認できない！
現在進行形で移動中！
逆探知には時間がかかると口を滑らせる新人オペレーター！
「ど、どう言ったらいいのジョーダン？」

「……かわって！」

評価：ブラッド・アンダーソン臭が非常に薄い…と思ったら……


あのブラッド・アンダーソンがこんな映画を!?
ブラッド・アンダーソンつったら嫌な方のアンダーソン
悪意しかないアンダーソン……という非常に偏った心構えで
見始めたんです。
いや、シベエクとかもフツーの映画ぽかったんだけど
セッション9でやられた人間としては、マシニスト、ノイズと
「キャーッ、ブラッドー!一生ついてくー!!」と思ってたわけでして
だからまあ、そういう目線で見ちゃうんだよねえ…
ほんでまあ、面白いけど、これって
ブラッド・アンダーソンが撮らなくてもいいんじゃねーの？
この脚本なら、この硬質な感じは出せなくても、
誰でもそこそこ面白い映画が撮れるんじゃねーのかな～…と
そう思ってましたよ。
ラストのラストまでね！

ってなわけで、その話は後にして、本編の細々とした話を
していきましょう。
この映画とにかく地味。
ド派手なＣＧも勿論ないし、なにより半分くらいが
車が走ってるだけの映像。
ところがこれが面白い
地味な映像に、地味な展開が重なるだけで
嫌なリアル感と緊迫感が画面からじわじわ滲み出てくるのだ。
例えば、走っている車のトランクに女の子が閉じこめられている。
恐ろしいシチュエーションではあるが映像としては地味である。
だが、ここで
中からテールライトをぶっ壊して手を出して周りにサイン
という地味なミッションが加わる。

強烈！

車の運転って風景が「予想できるもの」で締められているんですね。
そうすることによって交通事故を減らしているわけだから。
でもここに、ほんのちょっとした異物が乱入してきた時の
驚きときたら……目が吸い寄せられるとはこのことですわ
ちなみに私が今まで生きてきて、道路上で遭遇した全く予想できなかった物は
タタミです
強風であおられた畳が前の車から舞い落ちたのよ

また小さな演出で、不穏な空気を出す演出も面白い。
ある意味、ここら辺がブラッド・アンダーソンにオファーを出した
理由なのかもなとも思う。
ジョーダンが犯人の別荘に乗り込み、アルバムを見るシーンで
切り替わる瞬間に写真の目だけを一瞬残す演出
この瞬間から、犯人の動機が、実はじっとりと最初からこちらを
見続けていたような、心霊映画的な感じが加わったりする
（幽霊映画ではなくて、死者の無念ではなくこう…生きている人間の何らかの思いといいますか…）

アクションもやはり地味。
だけども演出がきびきびしているし
なによりアクションの為に話を止める、なんて愚行はしないので
観終わった後の印象はかなり良い
ただー…ラストのハル・ベリーキックはちょっとww
あれはー…笑っちゃうなあww

というわけで一端、ここで〆ですね
サスペンス映画としてお奨め
プロがプロの技術を駆使して、解決に当たるって辺り
潜水艦映画にも似た楽しさがあるよ！
90分弱だし、お暇ならぜひ！！














さてさて…

ワタクシ、ブラッドアンダーソンはデビュー作から地味に地味に
人間の心の在り様を描いている作家……
なんじゃねーかなと思ってるんですが
ワンダーランド駅がそのプラス方向での頂点なら
セッション9がマイナスの頂点
何かのかけ違いで、ドンドンずれていく心。
そこからもたらされる喜劇と悲劇

というわけで今作、終わってから振り返ってみると
実の所、ずれて歪んだ心がぶつかり合う
じつにブラッド・アンダーソンらしい映画
になっていたのかとも思ってみたり
犯人とジョーダンは、誘拐された少女を中心に
「自分の心の傷」を埋める為にぶつかり合っていたのじゃねーかなと
要はですね、この誘拐された少女は、二人にとっては
「別にコイツでなくてもいい」んだよね
ジョーダンにとっては「死なせてしまった少女の代わり」だし
犯人にとっては「病死した姉の代わり」だしね

ジョーダンが最後に現場に向かっちゃうのは
オペレーターが言ってた言葉を受けての行動でさ
言っちまえば、あの一言で、背中を押されて落ちていくのが
後半の展開なんだよね。
深淵を覗く者は、覗き返される云々ってやつですね

で、問題のラストですね

私は物凄く感心したし
これでこの映画の見え方が、反転しちまった
ただのサスペンス映画かと思いきや
それが全部前フリで、映画を楽しんでいればいるほど
ラストのラストにぎょっとするという展開
セブンみたいな絶望ではなく
我々自身が、映画の登場人物に裏切られる展開

もっと言えば
観客が一人にされてしまう展開

つまりですね、新人オペレーターさんが言ってた言葉を
我々にぶつけてきてると思うんですな
「最後まで見せないよ。映画はこれで終わりだよ。だからお客はこれ以上
観れないの。あとは……あなたの心で完結させて！」
最後の最後に、我々の心を、エンドクレジットに
描かないで描いてみせるこのオチ……
あの後どうなった？と普通の人は大体二択に行くわけです。

①：あのまま犯人を放置？
つまり怪物が暴れ回って、怪物が生まれたってオチか!?


②：あの後通報した？
ちょいとした懲らしめ。ハリウッドらしいウィットに富んだ
素晴らしいオチ!?　でも完全に犯罪じゃね？

どっちに転んでも、すっきりしない
この映画が散々描いてきた、地味でリアルな展開がここにきて
意味を持ってくるわけだ
あの後、犯人が脱出してバッドエンド？あの非力な犯人が？
ないわな

…まあ、要するに
というブラッド・アンダーソン映画の問いかけに遂に我々も組み込まれた
という素晴らしいエンディングであった…と思うんだが、どうですかね？
これって、このガジェットで、メジャー映画だからこそできた
逆転の発想なわけで
幾らでも爽快なエンディングにできたろうに
あえてこのオチ……
メジャー大作で自分流をギリギリ貫く感じ、やっぱりこの人すげえわ…

つーわけでですね、実はラストがリトマス試験紙みたいな映画なのですね
私はってーと……

放置

ですかね。




ちなみにジョーダンの後半の行動って典型的な
ハリウッドアクションヒロインの行動でして
それって現実世界で考えると……
だからジョーダンって、あの事件の所為でどっかが密かに
狂っちゃったってオチなんじゃねーかな