ドリー・デッドリー 原題「Dolly Deadly」 2016米
監督:ハイジ・ムーア
主演:ジャスティン・ムーア
共演:キンバリー・ウェスト・キャロル
ジェイ・ソスニック
あらすじ
ベンジー君は孤独であった。
唯一の肉親である母親は死に、引き取り手の祖母とその恋人は、彼に理解を示さない。
というか彼と生きている世界が違う!
そんな窮屈すぎる生活の中、
人形と母親の写真をこよなく愛する彼に友人ができるはずもなく、いじめは日々エスカレート。
ここで近所の子供が二人しか出てこないってのが、また…
彼は益々内的世界に浸るようになり、やがてある事件を引き金に、一線を超えてしまう……
評価:まさに独特な世界観!これは面白い!
以下ネタバレにつき御注意!
粗筋を見ても判るように、ギリアムの「ローズ・イン・タイドランド」やデルトロの「パンズ・ラビリンス」そして「ババドック」のような
子供への目線は限りなく優しくそして
まったく容赦がない映画。
で、まあ、ありがちっちゃあ、ありがちなのかもしれないけど、
「ああ、もう…」と鬱になりそうなお話であり、展開なわけでございますな。
例えば、ベンジー君は度々妄想で母親と話すんだけど、彼は赤ん坊の時に母親と死別しており、
母親の記憶は恐らく無いんです。だが、写真を持っておりまして、恐らくそこから妄想を膨らませ、助言役として母親を作りだし、なんとか自分を保っているんですな。
だが、悲しいかな
限界があり、例えば
「母親に優しくしてもらう」という願いは
……
「ただひたすらに自分が好きな料理を持ってきてもらう、だけ」なのだ
私は、子供は空っぽの容器であり、周囲の大人たちが様々な物を注いで完成していくのじゃないかと思っておるのですが、この映画のベンジー君の周りでまともな大人としての行動をしているのは、
狂人だけ……そりゃ、歪むわなあ……
いや、ベンジー君、もうすでに出来上がっちゃってて、妄想や不安で、もしかしたら
普通の人も狂人とか怪人に見えているんじゃないかって疑いまであるんですよ!
特にこの人
ガンガン麻薬をキメます
こいつが、色々始まっちゃう後半の出だしで、実は
多分同一人物だと思うんだよ
というベンジー君を心配するシーンが挟み込まれる!
もしかして視聴している我々は
ベンジー君の素顔が見えてなかったのじゃないか?
後半、彼が被るマスクはそういう意味なのではないか?
とまあ、いや~な感じが漂って嫌な想像しかできないお話……なのに最後まで
楽しく観れてしまうのは、この監督の
独特な世界観の所為だろう。
まるで
合成着色料のキャンディーを眺めているかのごとく、
うわぁ…とも思いつつも、
なんだか楽しいのである。
例えば、こういうもの悲しいシーンがあるのだけれども
お約束の一人馬の乗り物!
…やめてくれぇ!切ないわ!
というシーンなんだけど
オチが
見知らぬ、ふてぶてしいガキ!
とまあ、結構
笑かしてくるんだよね。
で、そういう不思議なテンションを、映画としてガッチリ成立させてるのが
主役のベンジー君を演じた監督の息子ジャスティン君の演技力!
ババドックの子役にちょっと似ているのだけれども、あれに匹敵する名演技!
(というか、そういう風にかなりうまく演出されている)
「可愛くて引っ込み思案」がそのまま
「何を考えているかわからない不気味さ」
にシフトチェンジしていく様はお見事!
というわけで、お薦め!
ホラーというよりも、
ファンタジーより、かな?
あと、
ベンジー君の入浴シーンがやたらとあったり、途中でいじめっ子の女の子を、合意のもとで水に沈めるシーンがあるんだけど……こう……
独特のエロスがある気がするんだけど、
それは見て確かめてみてくださいませ!
さて、以下、ちょっとネタバレで不満点
メイクの所為もあってか、私は途中まで
バットマンのジョーカーの幼少期ってこんな感じじゃないかな、と見ていたのだけれども
ラストでね、その妄想がちょっと通じなくなっちゃうんですよ。
うーん、そこは見せない方が良かったんじゃねーかなー……
あとね、ベンジー君が一歩踏み出す後半へ向けて
ある事件が起きるんですよ。
で、その後、彼が
ひたすら走るんですよ。
もう、ここが
素晴らしい!
名場面!
だけれども……ちょっと色々映像が挿入されちゃうんですよ……
それまで、あまり感情を激しく表現しなかった彼が号泣しながら走る!
それを前からとらえた力強いショット!
(もしかしたら本当の彼はあの一瞬だけだったのかも)
ここは彼が
脱皮するシーンなんだから、
ひたすら走る様だけを映してほしかった!